低い声で呟く

横浜市内在住、オタクな3児の母によるブログです。

「忘れないと誓ったぼくがいた」

平山瑞穂先生の小説です。題名から考えるに、主人公とヒロインとの間に別れが訪れるのだろうから、難病もの(あまり好きではない)かなぁ?と思いながら読み進めましたが、違いました。もっと不思議な現象(病気と言えなくもないかもしれない)によるものでした。

存在と記憶が密接に関連しているという点において、「仮面ライダー電王」の侑斗を思い出します。

「自分だけでも忘れなければ彼女は<消え>ないはずだ」という考えの下に、主人公は自分の生活を投げ出して奔走します。その様子がまた鬼気迫るもので、「シュガーな俺」を読んだ時にも感じましたが、このような「鬼気迫る」描写が本当にリアルで巧みだと思います。

ヒロインは、淡々と運命を受け入れているようでありながら、自分の身に起こる不思議な現象を理解し、止めようと頑張ってくれる相手に出会えたことで、<消え>ることへの恐怖を認め、それと向き合うことになります。

運命は変わらず、彼女は<消え>てしまい、主人公はいつしか彼女のことを忘れていきます。その後、ノートの記述や映像から、知識として彼女のことを記憶していきます。

ちょっとした偶然から、主人公はヒロインが彼に対して抱いていた思いを知るのですが、彼女がそれを残した手段も、彼女の気持ちも、何と言うか、甘酸っぱいのです。

別れのシーンは切なく、逆らうことのできない忘却であることは理解しつつ読むものの、主人公がヒロインを完全に忘れてしまったことがもどかしくもあり、恨めしくもあり、そこがまた切ないのです。

大変興味深く、面白い小説でした。「難病ものか?」と思われて敬遠されているのなら、勿体ないことだと思います。